【春日部市史】明治の粕壁町

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粕壁町の歴史

 江戸時代、粕壁宿には4・9の六斎市が開かれていた。一応近隣農村の経済的核とはなっていたが、宿の主要な機能は宿駅業務にあり、旅籠や飲食店が中心の町であったといえる。しかし、明治以降は商業の町としての性格を強めてきた。明治中期には、経済都市としての性格を備えてきた。

 明治35(1902)年発行の『埼玉県営業便覧』によって町並みを概観しよう。粕壁の新新田町、三枚橋、新宿、仲町、上町、寺町岩槻道、停車場道、岩槻新道、旭町にならぶ商店数は左右合計263軒であった。このうち食品とは直接関係ない店を数えると、126軒であった。そして飲食関係の店が137軒であった。これを各町別にみると、非食品関係の店舗率の高い地域は、岩槻新道の8割、三枚橋町6割、仲町6割であった。食品関係店舗の割合の高い町は、岩槻道、停車場道であった。同割合がそれぞれ9割、7割であった。

 町並みには、粕壁町役場、粕壁高等小学校、粕壁巡査部長出張所、粕壁郵便電信局、武蔵穀物商同業組合事務所、埼玉木綿織物同業組合東北事務所、その他粕壁銀行もあった。こういう機関がすでに設けられていたのだから粕壁は、この時代に穀物商や木綿織元業者のビジネスのセンターの役割を担っていたのである。また埼玉東武の教育や行政のセンターの地位になってきたことだろう。

 「春日部市史第五巻民俗編」では、この『埼玉県営業便覧』を使って「商人・職人・製造業など一覧」を作ってる。この一覧に加えて、粕壁にはさまざまな職種の商人・職人が住んでいた、と記している。一覧から総店数214店、このうち8割の172店が商店、この商店のうち織物関係が27店、穀物飲食関係が57店、小間物荒物関係が19店、飲食料理関係が21店その他が48店であった。次に37店が職人製造業、5店が交通関係であった。このうち町の経済の特徴と思われる点を指摘しよう。

織物関係

呉服屋は3軒で、糸繭商、糸商、太物卸小売商、埼玉物産木綿買継商白木綿商、綿糸繭糸商などがある。これは、粕壁は周辺農村で生産された繭や綿糸の集荷地域だった。そして、繭や綿糸の集荷量や値段の動向が粕壁町の経済の繁栄を左右する一因であった。明治41(1908)年7月7日の埼玉新報は「各地方からきた製糸家が買い付けた繭の乾燥が粕壁では間に合わないで越谷や岩槻、杉戸へ行ってしまった。そのために粕壁に金が落ちなかったから粕壁の料理店やその他の商店も営業がおもわしくないだろう」と記している。

その他の産業

 町には米穀商が12軒もあった。この他に白米商を含め4~5軒あった。白米商というのは精米し、小売をしている店である。米穀商というのは、卸屋、問屋のことである。これも周辺の稲作生産を背景として成り立っている商売であった。ここには、かなり古い時代からあったと思われる桶屋、鍛冶屋、提灯屋その他を除いてみると、木綿機織業、ボール箱製造業、麦わら真田・麦わら帽子製造業、煙草製造業があった。このうち煙草製造業は、日清戦争後財政を増強するために、政府は、葉たばこ専売の方針を立て、栽培業者の反対を押し切って明治31(1898)年からこれを実施した。このころから煙草製造業者が乱立した。

 粕壁宿は天保14(1843)年の記録では旅籠屋の数が45軒もあった。奥州街道でも旅宿の多い町であった。ところが『埼玉県営業便覧』によると旅籠は3軒となっている。明治32(1899)年の東武鉄道の開通など交通条件の変化により旅館営業が困難となったためと見られるが、その反面、商業の町として、料理・飲食店が20見られる。中には待合茶屋などもある。そうした面でも町は大きく変貌してきたのである。日光街道の旅行者を相手とする職場町としての性格は薄れ、地場産業としての米麦などの穀菽(こくしゅく)類、木綿織物類、新興産業として麦わら真田などの取引の中心としての性格を強め、また周辺農村への生活物資供給の上でも大きな役割を果たすことになった。

春日部の箪笥製造業は明治期にはなかった

 なお、現在の重要な産業となっている箪笥製造は明治35(1902)年当時はまだ姿を見せず、わずかに仲町に「桐材商」の名が見える程度であった。ただ市域村々の物産書き上げの中に、「建具并(ならび)に箱指物類」を挙げているものがあり(大枝村、銚子口村)、こうした地域では箪笥技術の基礎になるものが芽生えていたようである。日光工人の技術伝承を伝える説もあるが、むしろ水運の発達した地域であるから、船大工などによる技術が、こうした産業を生む基盤にあったのではないかと思われるが、どうであろうか。

『春日部市史 第六巻 通史編II』(平成7年3月発行)
第三章 近代化の進行と春日部
第二節 町や村の変貌 粕壁町(P98)より

 

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